バンドが自分たちの音楽をどのように聞かせたいのか | obanamicrofone 尾花マイク

バンドが自分たちの音楽をどのように聞かせたいのか

広津 千晶さん

G5×PA

これまで、オバナマイクの使用方法や使い心地、録音や集音へのこだわりについて、ミュージシャンに話を聞いてきた。今回話を聞くのはPAの広津千晶さん。以前このサイトでもインタヴューした折坂悠太、安藤裕子、赤い公園、EGO-WRAPPIN’、キセル、明和電機など、幅広いミュージシャンのライヴを支えている。演奏者以外の視点から見えてくる、マイキングの難しさや現場での苦労について話を聞いた。

--まずはマイクとの出会いから教えてください。

広津 折坂悠太君が、尾花さんのマイクをガットギターにつけて使っていて、「最近すごく気に入ってるんです」と話していて、実際に自分が現場でPAをするときにも使わせてもらったのが最初ですね。

--今はどのように使われていますか。

広津 折坂君で使用したときに、やはり取り付けがすごく簡単にできるのが大きいポイントだと思いました。毎回毎回、付けたり外したりがしにくいマイクも多いんですけど、尾花さんのマイクは本当に簡単に取り付けられるし、かといって弾いてるときに取れてしまうみたいなこともない。そういうタイプのダイナミックマイクはあんまり見たことがなかったです。あとは音がナチュラルだったので、他の人でも使ってみたいなと思い、担当している他のアーティストのガットギターやアコギにもつけてみています。実際に、EGO-WRAPPIN’のギターの森(雅樹)君のアコギや、キセルの兄のガットギターにはつけたことがあります。ROVOの岡部さん のカホンにもつけてみました。

--元々のきっかけは折坂さんということですが、アーティストで自分のマイクを持っている方は多いんでしょうか。

広津 私が担当しているアーティストだと少ないのですが、中にはアコギをとるのにマイクも立てて欲しいといって、自分のマイクを持ってくる方もいますね。実際にアコギやガットギターの前にマイクを立てるのは、動いてしまったりすることもあるのでなかなか難しい事も多いです。ボーカルマイクはよく持ち込みがあります。

--折坂さんやカネコアヤノさんにインタヴューした際、やっぱりピックアップでとらないとどうしても音量が大きくならないけど、ピックアップの音色は自分が思っているギターの音と違っていて、そこにはまるのがオバナマイクだったとお話しされていました。同じような悩みをアーティストさんから聞くことは多いですか。

広津 多いですね。特にバンドの中だと他の楽器の音が被ってくるので、マイクは使えないと思っている方が、アーティスト側にも音響側にも多いです。ラインで、プリアンプで音作りを細かくされる方も多いですけど、やっぱりどうしても空気感みたいなものはマイクが一番出やすいかなと思っています。

--ギター以外でマイキングに苦労されるのはどういう場面でしょうか。

広津 たとえばピアノみたいに音域が広い楽器だと、どこにどんなマイクを立てるのかということで苦労したり。バンドの中でピアノを使うことも多いのですが、マイクだけではどうしても他の楽器との音の被りが有って難しいのでピックアップを使ったりとか。それはギターも同じです。マイクだけで出せれば本当はいいのかもしれないけど、私が担当しているバンドの音楽だと、どうしても近くでドラムが鳴っていたりするので、ピックアップとマイクを合わせて、エアー感みたいなものを足したいと考えています。ギター以外の弦楽器でも、例えばバンジョーのピックアップだと結構ペタッとした音になる印象があるので、無理やりボディの裏を外してマイクを支柱にくっつけて蓋をして使ったりします。そういうときに尾花さんのマイクなら、ダイナミックマイクということもあってあんまり神経質にならずに使えるのと、グリップの部分が動かしやすいのでいろんなものに付けられるんじゃないかなと思います。基本的には、バンドが自分たちの音楽をどのように聞かせたいのか に合うようマイクを選んでいくので、イベントやフェスのセッティングの時間が少ない時でもクリップで簡単に楽器がつけられるのはすごくありがたいなと思います。

--目指すサウンドなどについて、普段アーティストの方とどのようなコミュニケーションを取っていますか。

広津 アーティストの人たちがどういう風に伝えたいのかを、ちゃんと把握したいですね。ただPAで出すだけでよければそれも出来ますが、その音楽やアーティストを理解して、音を出すということが大事だと思っています。面白いのは、話していると、自分では思いもつかなかったようなアイデアが出てきたりして。それこそ折坂君は、マイク録りもしたいけど動きたいっていうところがあって、尾花さんのマイクに繋がったんだと思うんです。そういうところは、本人じゃないとなかなかたどり着けないものなので。私たちも仕事柄、いろんな人に聞いたり、見たりして、情報を得たりするんですけど、やっぱりコミュニケーションはすごく大事です。

--アーティストの方とのやりとりはどのように進んでいくのでしょうか。たとえば各楽器の音量とか、ここはもう少しハイを切ってとか、そういう細かい話を詰めていくのか、それとも「あのバンドの音に近づけたい」みたいな話なのか。

広津 人によりますよね。もちろん具体的に、こういう風に出して欲しいっていう方もいますが、好きな傾向は聞くようにしていますね。例えばドラムの人だったら、どんなドラマーが好きなんですかとか。でも、担当してるバンドの方で、もともとドラマーじゃなかったからかもしれないですけど、好きなドラマーはいないって人もいたりで(笑)。

--(笑)。

広津 だからこそ叩けるドラムがあるんだなと思ったりもするので、すごく面白いですね。こうやりますっていうのが決まってるわけではなくて、こういう風に出してるからそのまま録って出してねっていう方もいるので、本当に人によると思います。でも基本的には、そこで出してる音をそのまま出せる形でやりたいなっていうのが、一番思うことですね。

--お客さんに音が届くまでの過程で、PAはすごく重要な役割だと思うんですが、広津さんの中にも音の好みはやっぱりありますか。

広津 あると思います。傾向はあると思うんですけど、一番大事なのはステージに立ってる人たちが出したいもの、やっている音楽をそのままちゃんと伝えられるようにすることです。あとはもう、お客さんにいい環境で聞いてもらえるのが一番。 最前列でも一番後ろでも、なるべく同じバランスで届けられれば、というのはいつもすごく考えます。

--観客として観に行かれたライヴで、特に音が印象的だったことはありますか。職業柄、そのあたりは常に考えているんでしょうか。

広津 本当にそういう意味では自分でしょぼいなーって思うんですけど、観に行ったライヴでは、よっぽどひどいか、ちょっと良すぎてびっくりするみたいなことがない限り、気にならないんですよ(笑)。10年以上前、池袋の芸術劇場にカエターノ・ヴェローゾが来たのを観に行ったときに、後からその日は音が悪かったとか、音が小さかったっていう評判があったみたいなんですが、私は位置がスピーカーに近かったせいもあってか、そんなこと何も気にせずに観ていて、すごいよかった!って思って帰ってきたので、あんまりそういう意味では参考にならないんです(笑)。ちゃんと、スピーカーはあれを使ってて、みたいなことを気にする同業者の方が多いと思うので、私はダメだなと思いますけど。

--でもそれはある意味すごくストイックな音楽ファンというか。

広津 ストイックというか、ただの音楽ファンなんです本当に。なに使ってた、とか聞かれても、あんまりよく分かんない、そこを見てなかった、みたいなことが多いので。

尾花 聞きに行ってるんですもんね。

広津 そうですね。自分もそういう風に思うので、お客さんにも、音がどうだったとか、スピーカーがどうだったとかって、あんまり気にならないライヴにできるのがいいなとは思いますね。

--広津さんからみて、今こういうマイクが欲しいという要望はありますか。

広津 尾花さんのマイクでいうと、今あるものより大きい、たとえばバスドラをとれるマイクだったり、あと逆に今のU1よりも更に小さい、コンパクトなマイクがあると使ってみたいし、聞いてみたいなと思いますね。

--今のサイズよりさらに小さい方が便利ということもあるんですか。

広津 私が担当しているアートユニットの明和電機で、つけてみたいなと思います。楽器自体が作品だったりするので、目立たないけれども音がしっかりとれるマイクが良くて、楽器の構造的にダイナミックマイクがいいので。多分パーカッションとかも、ものによっては小さい方がつけやすいものもあったり、他にはアコーディオンだったり、そういうものにつけられるマイクがあるといいかなと思いますね。アコーディオンのマイクも、付け方も含めて結構探すので。

尾花 明和電機さんの演奏で私のマイクが使われてるのはぜひ見てみたいです。

広津 ちょっと今は行けないんですけど、明和のアトリエに持って行って、チェックしたり試したいと思います。

尾花 ぜひ! 今日は本当にありがとうございました。