PAさんに「動かさないで！」と言われるけど...（大石竜輔）

肩書きは「ガチタンバリン奏者」。レク（アラブタンバリン）をメイン楽器とする打楽器奏者で、様々なアーティストとライブで共演し、9月からは→Pia-no-jaC←のピアノ担当・HAYATOと打楽器奏者3人によるバンド「←Tra-ffic-jaM→」でのツアーも控える。20万人以上の登録者数を持つ自身のYouTubeチャンネルでは、巧みなテクニックによる演奏はもちろん、ゴミ箱を楽器として奏でたり、意外な人物とのコラボやカバーなどをアップ。他に類のない個性的な活動で、『激レアさんを連れてきた。』や『めざましテレビ』など近年はテレビにも多く出演している。打楽器奏者にとって楽器と同じくらい重要な意味を持つマイキングへのこだわり、ライブやレコーディングで理想の音を出すために日々考えていることとは。

――いつ頃からオバナマイクを使っていますか。

大石　3,4年前からです。打楽器用のマイクは、一か所に固定するクリップタイプのものはたくさんあるのですが、自分はレクをタテに構えるし、タンバリンはずっと振っていると遠心力でどうしてもマイクがズレたり、打面にくっついたり、逆に外れたりしてしまう。オバナマイクの「OBA-PD2」（パンデイロ向けのコンデンサーマイク）は3点で固定できるので、まずはそこがいいなと思いました。重心が中心になるので振り易いし、マイクがズレないのでずっと楽器の中心から音を拾うことができる。すごく助かっています。

自分の場合は周りの音量が大きい中で、大きな音を出すためにできるだけマイクを楽器に近づけたいことが多く、それも可能になりました。簡単に装着できるし、ケーブルが長いので現場によってはミキサーに直接つなげられるのも便利ですね。

――具体的にはどのような場面で使っているのでしょうか。

大石　自分が組んでいるドラムセットの中でバスドラムとタムとしてパンデイロを使っていて、そこにオバナマイクをつけています。レクを含めたドラムセットとして、それぞれの音がしっかりコンビネーションしていくにはどうすればよいかという研究を重ねて、たどりついたのがパンデイロでした。レクはそれ自体で低音と高音のバランスが完成されているので、たとえば金物を刻んでいても、それがハイハットのような役割だけでなく、ときにはスネア、場合によってはバスドラムの役割を果たしているときもある。ドラムセットのバスドラムが大きすぎると、それがただの金物になってしまうんです。バスドラムをパンデイロにすることで、バランスが取れるようになりました。

でも、小口径のバスドラムをクローズで鳴らしていると、どうしても演奏中に楽器自体が動いていく。ライブの現場でPAさんが置いてくれるスタンドマイクでは拾えなくなってしまうことがあるし、グリップタイプのマイクもズレていってしまう。そこでオバナマイクを使いはじめたところ、めちゃくちゃ良くなって、周囲からの評判も良くなりました。

あとはちょっと変わった使い方として、最近、ガチャポンを叩いて様々な音を奏でるケロリン君とYouTubeで共演した際に、オバナマイクを使ってもらったら、とてもよく音が拾えました（笑）。

――打楽器は他の楽器と比べても、マイキングが特に重要な要素ですよね。

大石　自分の場合はタンバリンの打面の裏側を自分に向けて演奏していて、普段そちら側で鳴っている音を聴いているので、マイクを通してもその音が入っていた方が自分としては違和感が少ないんです。打面にマイクを近づけることで低音を強めたいということもあります。それをいかにして実現するかということはいつも考えていますね。

例えば、タンバリンを両手で持って皮をカツカツ鳴らすような奏法は、打面の表側の音だけだとちょっと弱いなと思うときがありました。それが、この前のレコーディングで表側の音を録りつつ裏側の音も一緒に拾ったらしっくりきたので、やっぱりマイキングは大事だなと。

タンバリンは振って演奏するときに、マイクとの距離感が難しいんです。近すぎると、聴いている人は耳元でシェイカーを鳴らされているような変な感覚になる。生音だと気づかないような細かい音まで、すべてが粒立って聞こえると違和感があるのかもしれませんね。

ライブでも、以前はイメージする音が出ないなと思っていたんですが、マイキングの研究を重ねてイメージに近づいていくうちに「大石さん、上手くなりました？」と言われるようになりました。楽器を変えたことも大きかったと思います。使用楽器とマイキング。全部のニュアンスが聞こえるようになることが大事なんですよね。

――マイキングが上手いと思うミュージシャンの方はいますか。

大石　パーカッショニストのGai Seki（關街）くんやドラマーの佐藤響くんは、機材に詳しいなと思います。宅録環境をしっかり整えた人は、そこが強い印象ですね。楽器によっても違いますよね。ボンゴやコンガの奏者の方は、ライブハウスのゴーナナ（SHUREのSM57）がむしろしっくりくるということもあるようですし。

――自分が聴いている音をそのままマイクを通して出したいというのは、どんな楽器の奏者にも共通する永遠のテーマですね。

大石　特に自分が演奏するアラブタンバリンは、もともとは小さい音しかでない奏法をマイクに近づけて大きくしたり、逆に振りの音は遠目にしたりなどいろいろな奏法をするので、マイキングが難しいところもあると思います。ライブハウスのリハーサルでPAさんとマイクの位置を決めると「ここから動かさないで」とよく言われるのですが、「めっちゃ動くわ」と（笑）。１個の楽器から本当にいろんな種類の音を出しますから。

それでも最近はかなり理想のマイキングに近づいてきました。専門のPAさんがいなかったり、卓がなかったりと、いろいろな環境や場所で演奏することも多いので、EQをいじらずにフラットな状態の音でもしっかりバランスが取れているということがとても大事だと思っています。