増田義基は、電子音響音楽を人力で集団合奏するアンサンブルバンド、かさねぎリストバンドを主宰するミュージシャン。かさねぎリストバンドは、2018年3月に初めてのライヴを行なって以来、増田がメンバーの一員でもある網守将平とバクテリアコレクティヴのリリースイベントに出演したり、パフォーマーを交えたミュージックビデオを発表したり、強烈な残響を求めてダムで制作した音源・映像の展示を行なったりと、常に既視感のない新鮮な活動をマイペースに続けている。バンド以外でも、演劇やインスタレーションなど様々な領域で活動する増田に、音を録る上で普段考えていることについて話を聞いた。
--オバナマイクをはじめて使ったのはいつですか。
増田 一番最初は、2018年3月に北千住BUoYでかさねぎリストバンドのライヴをやったときに、3つ買ったんですよね。そのときはパーカッションの人と声の人にあてるマイクとして使いました。それから2年間くらい所有しています。
--増田さん自身はどの楽器に使っていますか。
増田 結構何にでも使っていて…。自分が買ったのはダイナミックマイク2つとコンデンサーマイク1つだったんですが、例えばピアノの天板をあけるところにくくりつけて録るとか、オタマトーンにつけるとか、ペットボトルにつけるとか、とりあえず置く、とか。あと一度、民家でやっていた展示(『仲町の家』で行われた無人演劇祭)の中の台所のブースで、料理をしながら喋っている音がスピーカーから流れているのを、別室のイヤホンから聴けるようにしたいというときがあったんです。そのときに、そのスピーカーのギリギリのところにLANケーブルがあったので、LANケーブルに巻きつけてスピーカーにあてるとか。そういう限界マイキングみたいなことをするときに使っていますね(笑)。
ーーサイズとか、引っ掛けやすい形状とか、物理的な便利さを生かした使い方ですね。
増田 僕は結構そうですね。音質に関しても、コンデンサーの方は、たとえば部屋に一個たてておけばとりあえずその部屋の音は拾ってくれるし、逆にダイナミックだったら、近い音しか拾わなくてハウらないみたいなのがあるので、特殊環境みたいなところに置いても、エラーが起きにくいなと思っています。出音は素直で使いやすい感じがしているので、それもあってすごくピンポイントな、ニッチな需要を満たしてくれるなと思いますね。
ーー増田さんはバンドでの演奏ももちろんですけど、インスタレーションのような展示活動も多いので、マイクも重要な楽器の一つという感じになっていますよね。
増田 そうですね。展示のときにすごく思うのは、マイクロフォンってセンサーみたいだなって。たとえばハウリングを使うときも、間に人が一人いたりしたら、知覚できるどうかは別として、本当に音は変わっている。なのでマイクは、その空間の音の物理現象を捉えることができるセンサーだなと最近むしろ思っていて。そういう意味で、音楽とか音が展示空間に何かしら関わっていくためには、その空間の音を集音して、人間の耳とは違う客観的なもの、データとして採集するという段階は不可欠だと思います。
尾花 その場に人と人がいたとしても、お互いの耳に直接聞こえる音だけではなくって、客観的にマイクを通してイヤホンで聴いたりするみたいなときに、やっぱりそれこそセンサーみたいな。別ものに変換される感じが。
増田 うんうん。
尾花 なんか、生ものみたいな感じで使っていることが多い気がしますね。
増田 そうですね。劇場の音そのもののフィールドレコーディングとかも興味があって。こういう劇場だから、こういう響きがするから、こういう発話方法が発明されているとか。ダムとか教会もそうだけど。空間自体の響きが、実は自分たちの作るものとか行動にすごく影響してるっていうのを端的に収集するときに、やっぱりマイクはすごく大事という意識はありますね。
--かさねぎリストバンドの活動を始める前、一人で音楽を作る上での録音というのはあったんでしょうか。
増田 どちらかというとフィールドレコーディングをしてましたね。ハンディレコーダーで、野外の音とかを録ってました。今でもハンディレコーダーは結構使っていて、ZOOMのH5にXYのマイクカプセルをつけたりとか、ローランドのR-26だと無指向性とXYどっちもついていて、自然な環境音とかを録るのに使っているんですけど。ハンディレコーダーは4つ持ってますね。
尾花 みんなに配ってますもんね。
増田 そうそう(笑)。(かさねぎリストバンドで)いま遠隔レコーディングしてもらうためにみんなに配ってる。いまみんなそれで録ってますね。
--たとえば今はないタイプのもので、こんなマイクがあったら使いたい、というのはありますか。
増田 着るマイクみたいなものがあったらいいなと。もっと変なフィールドレコーディングができるようになったらいいなとか。
--変なフィールドレコーディング?
増田 たとえば音響さんがガンマイク持つとかだと、普通にモノラルだし、目的の音があってそれだけをとりにいくような、焦点の合った録り音にならざるをえないんだけど、そうじゃなくて人が移動するだけで音源になれるみたいな。それはちょっと興味があって。肩からXYでとれるみたいな(笑)。バイノーラルマイクも2種類持っていて、ローランドのCS-10EMと、補聴器メーカーのアドフォクスのBME-200なんですけど。でもバイノーラルマイクってあんまり頭の形が近くない人が聞くと逆位相ばっかりで気持ち悪くなったりするので。西洋人が録ったやつは日本人にはあんまり立体感がないとか。なので、普通にステレオのマイキングポジションで、移動できるってなると結構いいよなあと。
--マイクや録音の面で、ここ数年の最新の技術というとどういうものなんでしょうか。
増田 アンビソニックスというフォーマットがいま最注目されていますね。最小単位は4つのマイクを立体的にばってんにして立てておくんですけど、それで360度の音を録っておくと、あとからバイノーラルにもできるし、ステレオにもできるし、サラウンドにもできるっていうフォーマットなんです。1970年代から実はあったんですけど、処理能力とかが全然追いつかないから、最近になってようやく注目されていて。それでいま最先端のやつが、ジリアっていう会社が出している19個のマイクロフォンが入った球体で、一応それが立体音響的な集音をするための製品としては最先端。
尾花 へ〜。
増田 意外と7万5000円とかで買えるんですよ。ただ音質はそんなによくなくて。アンビソニックスっていう方式にも問題があるんですけど、全体の音を録るから、すごいピンポイントに、たとえば人が移動してるのが臨場感を持ってしっかりとわかるかっていうとちょっと苦手というか。ちょっとオートメーションとかで補う必要があったり。
尾花 一口にマイクといっても本当にいろいろありますからね。
--それでいうと、音を録るということにおいて、増田さんが共通して求めていることって何なんでしょうね。
増田 もちろんいい音を録りたいみたいなのはありつつ、たとえばフィールドレコーディングについていうと、つまんない環境音とかあってもいいなと。たとえばYouTubeで「水のせせらぎ8時間」みたいなのがあるけど、あれが録りたくてやっている訳ではない、音フェチではないっていう自覚はあって。どちらかというと自分がレコードすることで、この場所のこの時間っていうのはたしかにここにあるみたいな、アーカイビングに興味があるので。たとえばそのときに、究極的にいえばボイスメモとかだったとしても、ここである人が、ボイスメモという、みんなが持っているiPhoneというインフラを使って録音した音がこれ、みたいに位置付けられるのであれば、音質よりもそっちの方が重要だなって思うときがあります。
--そのニュアンス、文脈が、最大限表れるようなマイクが、そのときには一番いいマイクだと。
増田 そうですね。さっきハンディレコーダーをメンバーに送っているみたいな話もありましたけど、パソコンを操作するのが苦手な人にとっては、とりあえず押したら録音できるハンディレコーダーが一番簡単だから。それでハンディレコーダーっぽい音にはなるけど、それも含めて、この時期にやるにはこれしかないと。なのでそこまで含めてちゃんと、聴く価値のあるものとして対外的に出すのは、自分の仕事だと思ってます。
ーーこの状況が長引くとレコーディングのあり方も変わってくるかもしれませんね。
増田 個人的にはそれを期待していて。それこそリモートだと、たとえば家のWi-Fiの回線が遅いとか、集合住宅に住んでいてWi-Fiのトラフィックが混むときがあるとか、もっと言えば、家族が多いから脱衣所でしかテレビ会議ができないみたいな人もいて。そういう家ごとの差みたいなのがやっぱり出てくる。
尾花 どうしても出てきますからね。
増田 そう、それで面白いなと思ったのは、デスクトップ・ミュージックの時代がずっとあったんだけど、いまはデスクトップのこっち側もすごい関係があるようになってきたなって。パソコンで完結してるなんていうのはやっぱり嘘で、こちらの生活までにじみ出ているのが、いい形で表現に入ったらいいなと思います。ノイズが重なっていくことに関して、もっと肯定的に考えたりとか。そっちの方向があるといいですけど、多分現実的にはノイズ除去ソフトがめちゃくちゃがんばるんだろうなとも思いますね。